人助けでも悪事は悪事

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真夜中の大掛かりな検問。

大きな事件があったのでしょうか。

警察に止められたトラックを運転していたのは、

性的指向に無縁そうな血だらけドラァグクイーン。(太ったローリー寺西?風)

トラックの荷台を確認する検問の警察官。

その中では、

おびただしい数の犬たちの目が光っています。

諦めたようにタバコに火を灯す、

血染めのドラァグクイーン…

今回は

2023年フランス公開(日本は2024年公開)のリュック·ベッソンによる監督·脚本作品、

「ドッグマン」をご紹介したいと思います。


🆘ネタバレ注意🆘

ドラァグクイーンが収容されたニュージャージーの留置所に一人の精神科医が送られます。

緊急事態なのか、真夜中の呼び出しに戸惑う女性精神科医は彼に面会、その理由を知ります。

男性用の留置所に入れるべきか、女性用の留置所に入れるべきか、

留置所の夜間当番は判断に迷い、

(男だと思うのだけども)自信がないので、彼女が呼ばれたようです。

性別を間違えてしまうといろいろ面倒が起こる時代ですから。

拘束場所に入ると、怪我をした女装男が高所にある小窓にタバコを向けて一服中。

精神科医のエヴリン·デッカーと、女装男の対面シーンでした。

窓辺からデッカーが座る面会テーブルまでの短い距離の車椅子の移動と足につけている装具から、

彼が両足に障害を持っていることがわかります。

最初に性別を確認された女装男は、金髪のカツラをとり男であると告白、

変装の理由は、別人になるため(変身)で、自分自身を忘れるためだと言います。

彼女の質問から男のことが少しづつ明かされていきます。

変装男の名前はダグラス

トラックの荷台にいた犬たちを、自分の子どもたちという彼は、

犬のことを、

「美しいけど虚栄心がなく、強くて勇敢だけど驕らない。人間の美徳を全て持っている。」

と評します。

ただ、

ただ一つだけ欠点があるというダグラス。

人への忠誠心 が犬の欠点であると述べるダグラスは、

自身が9才の時の犬や家族との残酷な話を語り初めます。


その頃、ダグラスの父は闘犬を育てることで生計を立てていました。

家業を手伝う年の離れたとともに、

犬に餌を与えず闘争心を煽るやり方で犬と接していました。(犬への愛など皆無)

父は犬に対してだけではなく、母とダグラスにも拳を振るう暴力男。

そんな父に従う兄は、弟ダグラスを嘘で貶める嘘つき男。

一方母親の方は、父と兄がいないところで、犬たちにこっそりと餌を与える優しい心の持ち主でした。

父がいない時に、ヨーロッパのレコードをかけながら、おしりを振りふり楽しそうに料理を作っていた母親を、

ダグラスは楽しい思い出と語ります。

ある日、兄の密告により、ダグラスは父を怒らせ犬舎に閉じ込められてしまいます。

1日2日のレベルの罰ではなく、本気で怒ってしまった父を止めることが出来なくなった母は、

日持ちの良い食料を大量にダグラスに隠し持たせ、

失踪してしまいます。

お腹に子どもを宿していた母親が、

暴力で支配された母親が出来ることは、逃げることしかなかったのです。

このことは暴力父や兄にもショックな出来事だったようで、

尚更ダグラスを憎むようになって行きます。


ダグラスは、長い期間犬舎で、少ない食料を犬たちと分け合い過ごしていました。

そして寒い期間を、一冬を犬たちと身体を寄せ合い乗り越えています。

この頃にはずっと犬舎にいるせいでしょうか、だんだん足を悪くしていたようです。


犬舎と物置は一つの建物になっているのですが、

その境目の板が朽ちているところから手を伸ばし、母親が(隠れて)読んでいた流行雑誌を見つけます。

古い情報ですが、人間的な情報はその雑誌からしか得ることが出来ませんでした。

唯一の人間らしい勉強の教材だったのでしょう。


ある日、産まれたばかりの仔犬をあやすダグラスの姿を、

兄が見つけ父親に報告します。

闘犬たちに子どもは不要ということでしょうか、

父親は産まれた仔犬を殺そうとライフルを持って現れます。

犬を殺そうとする父親に反抗するダグラスは犬のように大声で威嚇します。

ダグラスの友達たちも彼に倣い敵意を持ってダグラスの父親を威嚇。

怒りで正気を失った父親は、ライフルをダグラスに向け発砲、

発砲音とともに、ダグラスは体ごと吹き飛ばされてしまいます😱

父親は息子を撃った動揺やら、兄の説得で怒りを鎮め、家に戻ってしまいます。

兄は弟ダグラスを罵るばかり。

不安定な状態にある父親を心配そうに追いかけます。

弟への心配は皆無。

一方、檻の中の犬たちは不安そうにダグラスを囲みます。

撃たれたのは左手の小指。

ダグラスは、飛ばさた小指を袋に入れて、その袋を一頭の小型犬に託します。

母親の雑誌に載っているパトカーの写真を何度も指差し、

この血染めの小指の入った袋をパトカーの人に渡せ、と頼みます。


泥だらけのモビーは(ダグラスは犬に名前を与えてる)、

袋を咥え器用にフェンスの隙間をくぐり抜け外の世界に出ると、

犬や猫が通れる小路を手慣れた様子で歩いて行きます。(普段から出入りしてたのかな)

手際良く停止中のパトカーにたどり着き、ボンネットに上がり警官の目の前に袋を置きます。

賢いモビーは大切な仲間の願いを100%実行、

パトカーを引き連れ犬舎に戻ってきます。


自由の身を手に入れたダグラスですが、小指に銃弾を受けた際、跳ね返りを背中に受け、

脊髄損傷両足の機能を失ってしまいます。

警察にすぐに身柄を押さえられた父親と兄。

ダグラスの父親は獄中で自殺。

兄は8年後模範囚で刑期を終えますが、

出所したその時から、待ち伏せていた犬に付けられ、人目の少ない袋小路で犬たちの襲撃を受けます。

ダグラスの兄は命は助かったようではありますが…タダでは済まなかった様子。

(兄は神に救われた、とダグラスは言っています)


病院での治療、リハビリの後、

少年ダグラスは養護施設での新生活が始まります。(車椅子生活)

犬小屋から病院、養護施設と檻の器が変わった生活は、

父親の暴力からの解放はあるものの、大好きな犬がいないという寂しい生活でもありました。

そんな環境の中、ダグラスは一人の女性に恋をします。

彼の初恋にして、唯一の恋は、

シェイクスピアと演劇が好きな、美しく聡明なサルマという女性でした。

彼女の影響で演劇に情熱を注ぎ、演劇のメイクにもハマり、

“変身”の楽しさをこの時に覚えたようです。

しかし、彼女との演劇を共有できる期間は長くも続かず、

才能あるサルマはボストンの劇団に引き抜かれ、

更にブロードウェイ女優へと順調にステップアップしていきます。

残されたダグラスは、サルマがいなくなると以前のように一人でいることが増え、閉じこもる生活に戻ってしまったようです。

ただ、サルマの成功が自分事のように嬉しいダグラス。

数年後、初めて見にいったブロードウェイの舞台後に、サルマの楽屋を訪れたダグラスは、

サルマが既に結婚していること

サルマが妊娠していること

を知り酷く落ち込みます。

こんなに好きなのに報われず、サルマに裏切られたような失恋劇。

失恋の痛手だけではなく、一緒に演劇をやっていたサルマとの間に出来てしまった違い(自分の不自由な体のこと、彼女のサクセスストーリー)にショックを受けます。

人間は裏切るものだけど、犬は人間を裏切らない、と

昔感じていた思いに、またまたたどり着いてしまうダグラス。

悪いことは続くもので、

その時働いていた善意のドッグシェルターが閉鎖されることを知らされ、

ますます人間不信に陥るダグラス。

どうして必要な施設なのに無くなってしまうのか。

人間を貶めるのはいつも人間で、人間を慰めてくれるのはいつも犬たち

結局、

郊外の廃墟建物(学校跡地)に犬たちを引き連れ、そこに居を構えます。

秘密基地のようなその場所で、(違法行為?)

一人のご主人様と、絶対裏切らない忠実な下僕たちの共同生活が始まることになります。


霞を食べて生活することはできません。

ダグラスは、ドッグシェルターに代わる仕事を求めますが、

車椅子のダグラスを雇ってくれるところはなかなかありません。

職種を選ばないダグラスは、ドラァグクイーンのキャバレーの求人貼り紙を見つけ、

一度きりのチャンスを貰います。

母親が好きだったヨーロッパ音楽を聴いていた影響でしょうか、

フランスのシャンソン歌手、エディット·ピアフ のドラマチックな「群衆」をエネルギッシュに歌い上げ、

観衆の喝采を浴び、

ダグラスは、週一回のステージを勝ち取ることになります。

この仕事の他に、

犬を飼いたい人への譲渡仲介や

怪しい?犬を使った仕事で、

ダグラスと犬たちは食いつないでいくことになります。


怪しい犬を使った仕事とは、主に人助けであったり、窃盗による富の再分配 であります(不公平への報復)。

犯罪まがいのものでも、人助けであれば正当化する、

そして、富裕層であればそれを盗んで再分配することに躊躇はありません。

ヤクザまがいの無法者から、犬を使ってか弱いクリーニング屋の女の子を助けたり、

国連の会議に出席するような地位のある家に侵入、盗みを働いたり(実行犯は犬たち)

ダークヒーロー的な鉄槌を下して生活をしていたのです。


そんなダグラスを怪しむ一人の男が現れます。

拳銃を向けて、ダグラスたちの秘密基地にやってくるアッカーマンは、(進撃みたい)

盗みに入られた金持ちの家を担当する保険外交員。

宝石、貴金属の盜まれた現場を調べるために防犯カメラを確認、

ダグラスが犬を操り盗みをしたと突き止めた男でした。

ただ、

たった一人で、しかも拳銃で乗りこんでくるには、あまりに容易だったアッカーマン。

犬は犬の餌になった、という告白から、

ダグラスが犯した最初の殺人ということなのでしょう。

人のためであったとしても、犯罪は犯罪、悪事は悪事です


そして、

この後に最大級のピンチ、

死刑執行人呼ばれギャングの襲撃が待っていました。

人助けのため(クリーニング屋の女の子)、ギャングのボスを懲らしめたダグラスでしたが、

そのボスの恨みを買っていました。

武装ギャンググループ「死刑執行人」 vs ダグラスと犬たち の戦い。

武装化した無法者に対し、ダグラスたちはどのような戦いをするのか?

ダグラスはまた殺人を犯してしまうのか?

そして現在において、

拘留されているダグラスを犬たちは助けにくるのか?

ダグラスにどんな未来が待っているのか、

続きは是非映画を観て確認いただきたいです。


今回の「ドッグマン」は傑作映画だと感じました。

初期作品程のヨーロッパ的感性を感じなくなってしまったリュック·ベッソンですが、

題材からしてもそそられるこの映画は、ズバ抜けた作品です。

母国で愛されるエディット·ピアフの選曲もとても印象的で、

曲のみならず深い歌詞の世界もこの映画にマッチしたものになっています。

特に「群衆」は歌詞と合わせて、ダグラスが熱唱するシーンに圧倒されました。

今のところ、2024年に観た映画の中で一番面白かった作品でしょう。コレは。

オススメ映画です👍


父親に大きく狂わされた不幸な運命の中で、

犬なしでは生きていけなくなってしまったダグラスでしたが、

本当に近くに犬がいてくれて良かったと思える作品でした。

そこにしか救いを感じない作品でもありました。

救いといえば、この映画のホントのラストにもあったような気がしてます。

精神科医エヴリン·デッカーが早朝、自宅のカーテンを開けた時に、

一匹の賢そうな犬が窓ごしの彼女を見つめているシーンがあります。

今まで人間を信じ切ることが出来なかったダグラスが、

唯一信じ切ることが出来そうなのが、

話をキチンと聞いてくれて、悪事は悪事でしかないと教えてくれたエヴリン·デッカーだったのかなぁと、

そして、そのエヴリンにダグラスがお礼をしているように感じました。

二人の交流もじっくり観ていただきたい部分ですね。


この映画を観て過去のことを思い出しました。

昔々の ちゅうの高校時代のこと、

「犬は嘘をつかない」という言葉を口にした教師のことを久し振りに思い出してしまいました。

人間不信から出た言葉なのかと、当時はなかなかにショッキングな発言だと思っていましたが、

数十年後に今回のドッグマンを観て、高校教師の気持ちも少し理解出来るようになった気がします。(犬を飼ったことはないけど)

身近なSNSなんかでも、人間の醜い部分、汚い部分を見てしまえば、

犬たちの献身的な行動がとても美しく見えてしまう ちゅうでした。


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